東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1475号 判決 1966年10月28日
控訴人 天竜川舟下り労働組合
被控訴人 信南交通株式会社
主文
原判決を取り消す。
本件は、昭和四一年五月二七日控訴人の仮処分申請取下により終了した。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、第一次的には主文と同趣旨の判決を、予備的に「原判決を取り消す。被控訴人は本案判決確定に至るまで、被控訴人が控訴人に対し昭和四一年四月二五日の意思表示によつてした作業所閉鎖を仮りに解除して、天竜川舟下り事業を再開しなければならない。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
本件記録によれば、控訴人は昭和四一年五月二五日付で本件仮処分申請を取り下げる旨の書面を原審裁判所宛郵送し、該取下書は同月二七日原審裁判所に到達した事実を認めることができる。もつとも右書面によれば、相手方である被控訴人は右取下に同意しない事実を認めることができる。
訴の場合には、相手方が本案につき準備書面を提出し又は本案の弁論をなす等既判力ある本案判決を受ける期待が現実化した後は、相手方のこの期待を保護するためその者の同意がなければ訴取下の効力を認めないものとしているが(民事訴訟法第二三六条第二項)、訴訟がこの段階に至らない間は訴の取下につき右のような制約はない。その場合でも原告敗訴の本案前の判決が確定すれば、ある程度の拘束力は生ずることがあるのであつて、その意味では被告は消極的利益を有するのであるけれども、訴訟法は被告のかような利益は本案判決により受ける利益と同視せず、原告において被告の同意を得ないで訴の取下をなすことを許したのである。そのことは口頭弁論終結後の訴取下についても異るところはない。そして保全訴訟においては、口頭弁論を開いた場合でも、本案についての証明手続は行われず、その判決は本案の既判力を生じないので、仮処分申請の取下に訴取下の規定を準用するについても、訴訟につき被告がまだ本案についての準備書面を提出せず本案の弁論をもなすに至つていない段階における訴取下の規定を準用し、申請の取下については相手方の同意を必要としないものと解すべきである。
したがつて本件仮処分訴訟は、被控訴人の不同意にもかかわらず控訴人等の右取下によつて終了したというべきである。よつて、これと異なる原判決を取り消し、本件訴訟は取下によつて終了したことを宣告すべきものとし、右申請取下後の訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小沢文雄 鈴木信次郎 岡田辰雄)